言式『んもれ』稽古場レポート

俳優・梅津瑞樹と橋本祥平による演劇ユニット「言式」。演劇をこよなく愛する二人が「好きなことを試せる場所」として旗揚げし、第一弾公演『解なし』(2023年)、第二弾公演『或いは、ほら』(2024年)と上演を重ねてきた。今年、第三弾公演として発表されたタイトルは、『んもれ』。過去いちポップで、かつ意味深長なタイトルだ。タイトルカラーは手のひらサイズの酸っぱいフルーツを連想させるが、イメージビジュアルはハイキング。さらにあらすじによると、物語のキーワードは“夢”らしい。じわじわと脳内の中に広がっていく『んもれ』の世界……どうやら告知の段階から言式ワールドの扉は開かれているようだ。

初日まで2週間。初の通し稽古が行われるという稽古場を訪ねた。過去二作よりも大きくなった稽古場の床には、ステージの位置を示すテープがぐるりと円形に貼られている。言式としては初の試みとなる囲み舞台での上演。演者を取り囲む形で客席が設置されるため役者は全方位から観客の視線を浴びることになり、観客も座る位置によって受け取る情報に変化が生じる。どちら側の想像力も刺激されるのが囲み舞台の面白さだ。ステージ上にあるのは机と二脚の椅子。その周囲には小さな缶詰のようなものが無造作に転がり、真ん中には大きなスコップが横たわっていた。休憩時間を終え、作業机で台本の確認をしていた梅津が意を決したように「やるわよ!」と宣言すると、反対側にいた橋本も「やるの!」と立ち上がった。いよいよ初の通し稽古が開始された。

幕開け、ステージに登場する男たち。一人は何かを探しているようで、もう一人はストーリーテラーのごとく自分の置かれた状況を喋り始めた。どうやら二人は何か予期せぬことに襲われ、行くあてもないままこの世界を彷徨っているようだ。円形舞台の上を動き回りながら、丁々発止でセリフを掛け合わせていく梅津と橋本。非現実な世界にポンポンと飛び出してくる言葉遊びは楽しく、時にハッとさせられ、二人のコンビネーションに自然と引き込まれていった。やがて男たちは床に転がる缶を拾い上げる。缶の中に入っていたものは…。

『解なし』『或いは、ほら』はどちらもオムニバス形式だったが、今回は長編であることも彼らにとっては初の試み。だが初通しとは思えぬ勢いで、二人は『んもれ』の世界を構築していった。作家・梅津の紡ぎ出す哲学的なセリフに、自らの体温を加えていく橋本。その熱を受け取った梅津もまた、役者として『んもれ』の世界を生きていく。彼らが演じるからこそリアルな設定もあり、過去作とはまた違った印象を受ける作品になることは通し稽古からも感じ取れた。ここからさらにブラッシュアップし本番を迎える『んもれ』が、どんな広がりを見せていくか楽しみだ。

最後に、通し稽古を終えた二人のコメントをお届けする。

橋本「いやぁ、すごかったです。何も頭に入っていない状況から始まって、今日で稽古9日目。よく通せたな、と我ながら感心しています(笑)。今日を経て、見える景色がまた変わってくると思いますし、今後が楽しみな初通しになりました。入りにくいセリフもあったりしたんですけど、それは自分じゃない誰かを演じているから当然なわけで。逆に会話のやり取りが心地よい瞬間もたくさんありましたし、また新しい役に出会わせてくれた梅津先生への感謝が止みません。きっと今回も観てくださった方々の中に、いろんな“解”が生まれそうな作品になると思います」

梅津「初通し、僕も楽しかったです。三作目ともなると狙って複雑なことをやってみたところもあり。それは自分にとっても完成系のないパズルを組み立てるような感覚だったのですが、最初から最後まで通したことで半分ぐらい見えてきました。実は当初、僕と祥平の配役を入れ替えたバージョンも同時上演しようという試みも用意していたんです。男二人の会話劇なので、対立構造にしないと話が進んでいかないんですね。でも、一見対立しているように見えて、両立もしている。矛盾しているけれど、存在し得る。そういう意図が2パターンやることで、より表現できるのではないかと思ったんです。ギリギリまで悩みましたが、最終的にはひとつのパターンでクオリティーを上げていくことに集中しようということになりました。正直、今でも悔しく思う決断でしたが(笑)、こういう気持ちになるのも、言式だからだよな〜と思わせてくれました。そういったチャンスはきっと今後もありますし、ここから本番に向けてより緻密に作り上げていくことができると思うと楽しみですね。今、祥平と顔を見合わせてニヤニヤしています(笑)」

文:瀬尾水穂